「カッコーの巣の上で」
(The DAMNED)


巣から飛び立て!尊厳を取り戻せ。


映画カッコーの巣の上で ミロス・フォアマン監督
「カッコーの巣の上で スペシャル・エディション」
資料提供/ワーナー・ホーム・ビデオ  価格/\3,129(税込)



 純朴そうな笑顔でどこかを見上げているランドル・パトリック・マクマーフィー(ジャック・ニコルソン)が写ったこの映画の旧パッケージは、内容に対してあまりに可愛らし過ぎる気がする。(※残念ながら、廃盤。現在出ているものは、内容に即した、シビアな表情のものに。)

 映画「カッコーの巣の上で」は、1975年のアメリカ映画。日本での公開は、翌年1976年の4月だった。ケン・キージー(Ken Kesey)によるベストセラー小説「One Flew Over the Cuckoo's Nest(1962年)」が原作となっている。監督は、チェコスロヴァキア出身ミロス・フォアマン(Milos Forman)である。フォアマンは、1932年2月18日生まれ。両親はアウシュヴィッツで亡くなっている。プラハの映画学校で学び、チェコで映画作りをしていたが、チェコ事件を機にアメリカに渡り、1975年にはアメリカの市民権を取得。「カッコーの巣の上で」と「アマデウス」でアカデミー賞監督賞を受賞。しばしば伝記映画を製作しており、2006年にはハビエル・バルデム主演でゴヤの人生を映画化した。

 ナチスドイツの独裁と激動のチェコスロバキアを経験したフォアマンの人生…。プロフィールを調べながら、そのシビアな生い立ちに衝撃を受けた。「カッコーの巣の上で」の中には、戦後の日本に生まれ、安穏と日々を過ごしてきた私には見えていなかった社会の縮図が表されている。ストーリーを簡単に説明するなら、大体こんな感じだ。

 『精神異常を装って刑務所での強制労働を逃れ、州立精神病院へ強制入院させられたマクマーフィは、患者を完全統制しようとする精神病院の看護婦長ラチェッドから自由を勝ち取ろうと試みる。精神病院を舞台に管理体制に反発する人間の尊厳と自由を描いた物語。』

 1975年のアカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、脚色賞と主要5部門を独占、さらにゴールデン・グローブ賞でも6部門を受賞している。

 原題は原作と同じ「One flew over the cuckoo's nest」。もともとの由来はマザー・グースの詩である。
Vintery, mintery, cutery, corn,
Apple seed and apple thorn;
Wire, briar, limber lock,
Three geese in a flock.
One flew east,
And one flew west,
And one flew over the cuckoo's nest.

 英語では、カッコー(cuckoo)には「まぬけの、気の狂った」という意味があるそうだ。

 「刑務所の強制労働を逃れ、州立精神病院へ強制入院させられ」た犯罪者のマクマーフィ。罪は猥せつ罪というから、どれ程ダメな奴かと思いきや、これが、とても魅力的な人物なのだ。ストーリーの進行に比例して、きっと誰もがその人間味溢れる言動に惹き込まれるのではないだろうか?今まで地味なトランプゲームで満足していた入院患者の面々に賭ゲームを教えたり、シャイな青年に自分の女友達をあてがったり、病院指定の外出日に病院のバスをハイジャックして、皆を遊びに連れていったり…実にユニークで、そして、愛に満ちている。マクマーフィと出会ってから、入院患者たちの表情が徐々に明るくなっていく。

 マクマーフィは、本当に悪人なのだろうか?

 印象的だったのは、婦長ラチェッドのセリフ。

 マクマーフィが病院に入院させられたのは、もともと、詐病なのか否かを判断する為であった。数日入院させた後、院長他が「彼は病気ではない。刑務所へ送り返そう。」と口を揃えているところに、彼女は言う。

 「それは、他所へ問題を押し付けるだけで、何の解決にもなりません。私は、彼を救えると思います。」

 私はこの言葉に危うく騙されそうになった。ラチェッド婦長は、なんて素敵なナイチンゲール!なんて思ったのだ。しかし…ちょっと待てよ?救うって…何から!?間違っているのは、誰?

 ストーリーを盛り上げる音楽担当は、ジャック・ニッチェ(Jack Nitzsche)。アレンジャーでありながら、その個性的で特異な編曲スタイルによって大きな存在感を示した珍しい人物である。出身はミシガン州で、高校卒業と共に音楽大学への進学の為にロサンゼルスへ。彼の編曲のスタイルは当時としては非常に独自性の高いもので、基本的にはクラシックやジャズ・オーケストラの理論を応用した音数の極めて多いものなのだが、個々の楽器がまるでお互いを邪魔し合うかのように激しい自己主張を繰り広げており、“歌の伴奏”という従来のポップスのバッキング・トラックの常識を塗り替えるものであった。1960年にはニッチェのペンによる「Bongo, Bongo, Bongo」がプレストン・イップスの演奏によってヒット・チャートに上っている。また、1960年代中盤のストーンズによるアメリカでのレコーディングの際に、キーボーディストのいない彼らの為に、ピアノやハープシコードの演奏で加わっている。ニッチェのプレイは「Satisfaction」「Play With Fire」「Let's Spend The Night Together」など多くのヒット曲で耳にすることができる。ローリング・ストーンズとの交流をきっかけとして、1970年にはミック・ジャガーが主演した映画「パフォーマンス」のサントラを担当。これを端緒にニッチェは「エクソシスト」「カッコーの巣の上で」「ナインハーフ」「愛と青春の旅立ち」「スタンド・バイ・ミー」など数々の映画音楽を手がけるようになった。中でも1982年の『愛と青春の旅立ち』は、主題歌「Up Where We Belong 」がジョー・コッカーとジェニファー・ウォーンズのデュエットで大ヒットし、アカデミー主題歌賞を受賞している。

 シーンを盛り上げる素敵な音楽に惑わされないように、音楽はCDでじっくり聴くことをおすすめ。
 さて、本当のカッコーは誰でしょうか?



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